2011/04/13

鈴木智彦 「潜入ルポ ヤクザの修羅場」

潜入ルポ ヤクザの修羅場 (文春新書)

ボトムアップ型ヤクザ本
 本書の著者は、ヤクザ専門誌(実話誌とも言うらしい)15年のヤクザ専門ライターである。雑誌記事のための取材を通して観てきたヤクザの生態を、具体的なエピソードを紹介しながら分析、解説している。体を張って内部に食い込んだ取材を行っており、非常に濃い内容となっている。
 ヤクザ本の有名どころと言えば、古くは加太こうじの「日本のヤクザ」、最近では宮崎学の「ヤクザと日本―近代の無頼 」、外国人ものとしてデイビッド・E・カプランの「ヤクザが消滅しない理由(原題は"YAKUZA")」等が挙げられるが、いずれもヤクザのルーツを体系的にまとめ、その上で具体的な行動を解説する、いわばトップダウン型のヤクザ本である。一方、本書は、現場の具体的な出来事からスタートし、そこから背景部分の解説を行うスタイルであり、いわばボトムアップ型になっている点で新鮮味がある。目次は以下の通り。

序章 山口組VS警察
第一章 ヤクザマンション物語
第二章 ヤクザ専門誌の世界
第三章 愚連隊の帝王・加納貢
第四章 西成ディープウエスト
終章 暴力団と暴力団専門ライターの未来
あとがき

実体験と冷静な文章が生む迫力
 著者の取材は徹底して現場重視だ。ヤクザが多数住む、新宿歌舞伎町の通称ヤクザマンションに住み、一線を越えた記事を書いて襲撃され、4年かけて盆中(賭場)に潜入取材を許されるまでになり、飛田新地にも居を構えネタを探る。「よくぞここまで」と思わずにはいられないほどチャレンジしているため、各々のエピソードに迫力がある。さらにそれを増幅しているのが、冷静な文章である。客観的に、冷徹に物事を観察し、ニヒルに感じるほど淡々と書き連ねている。時には、ヤクザに心酔していた頃の自分自身さえ、冷徹に切って捨てるように描写しており、全体を通してわき上がってくるような迫力がある。
 著者が長年ヤクザを追い続けてきた理由は、単純な好奇心とのこと。同じようにヤクザに好奇心を持った方には、読んで損のない一冊だろう。価格を893円にしている演出もニクい。

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