レーザー技術による代替エネルギーの提案
原発の危機のため、自分の中で代替エネルギーに関する興味が高まってきており、先週の「
新核融合への挑戦」に続いて今週も代替エネルギー本である本書を読むことにした。本書は、東工大教授の矢部孝氏の研究を、テクニカルライターの山路達也氏がまとめた本であり、太陽励起レーザーを用いた新しいエネルギー流通のあり方を提案している。矢部氏はもともと、レーザー核融合のためのレーザーの研究者で、本書で使われる技術も、太陽光を用いたレーザーの技術を中心としたものである。目次は以下の通り。
まえがき
第1章 石油文明に代わるのは、自然エネルギー・水素社会か?
第2章 太陽光からレーザーをつくる
第3章 レーザーでマグネシウムをつくる
第4章 マグネシウムを燃やす
第5章 海水から淡水とマグネシウムを取りだす
第6章 マグネシウム循環社会がやってくる
あとがき |
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マグネシウムをエネルギー媒体として循環させる
矢部氏の思い描くエネルギー流通のあり方はシンプルだ。これまでの化石燃料文明は、地球に降り注いだ太陽エネルギーが石油や石炭という形で蓄えられたものを、採掘、流通させてきた。これをマグネシウムに変えようというものだ。ポイントは2つ。石油/石炭が過去に降り注いだ太陽エネルギーを使っているのに対し、今降り注いでいる太陽エネルギーを使おうという点。そして、石油/石炭ではなく、マグネシウムを精錬するという形でエネルギーを蓄積しようという点である。
核となる技術はレーザーと淡水化装置
では、どうやってマグネシウムを利用するのか?まず、マグネシウムは海水から取り出す。矢部氏が開発した高効率の淡水化装置(太陽熱を利用)を使って塩化マグネシウムを取り出し、さらに熱を加えて酸化マグネシウムとする。これに太陽励起レーザーを用いて2万度相当の熱を加え、瞬時に気化、アルゴンガスを用いて蒸着、という手順を踏み純粋なマグネシウムとする。現時点では最高70%程度の純度で精錬できるとのこと。マグネシウムはマグネシウム空気電池や、燃焼によりエネルギーを取り出すことができ、使用後の酸化マグネシウムは再精錬して使うことができる。必要な新技術は、淡水化装置と太陽励起レーザーである。読む限り淡水化装置の効率もかなり重要だと思うのだが、残念ながら本書ではレーザーに関する記述がほとんどで淡水化装置の記述は少ない。既に
ペガソス・エレクトラ社として事業化されているのが影響しているのかもしれない。
最大の利点は再利用できること
他の代替エネルギーに比べ良い点は、エネルギーが石油や石炭のように保管が用意な点と、再利用可能な点ではないだろうか。加えて、マグネシウム自体が豊富な点もある。同じ太陽エネルギーを利用する、太陽電池+リチウムイオン電池のシステムは保管の問題をクリアするが、リチウムの供給量の問題がある。本書によると、リチウムイオン電池はヘタった後の再利用も難しいようだ。マグネシウムは海水から取り出せるため量は豊富だし、一度取り出してしまえばリサイクルできるので量の問題は発生しない。
他方、エネルギー効率についてはあまり触れられていないので、恐らく欠点なのだと思う。本書によると、最新の太陽電池の変換効率は40%。太陽励起レーザーの変換効率が現状20%、理論上40%とのこと。マグネシウムを精錬するにはレーザー以外にもエネルギーは必要なため、同じだけの日光から得られるエネルギーについては太陽電池に劣るだろう。
つまるところは太陽エネルギーの使い方
本書を読んでいると、持続可能なエネルギーの使い方とは、つまるところ、過去に蓄積されたモノを使わず、今発生しているエネルギーのみを使うということなのだと気がついた。宇宙への進出を考えなければ、要は現在の太陽エネルギーをどう使うか、ということだ。マグネシウムの形で保管するのか、太陽電池でいきなり電気に変えるのか、はたまた軽油生成微細藻を通じて油にするのか。恐らく、どれかひとつで上手くまわるということは無いだろう。日中は太陽電池の電力を使い、夜間や雨のに日はマグネシウム発電で得られた電力を使う、といった形になるのではないだろうか。いずれにしろ、持続可能性を考えるとエネルギー供給量は日照量に左右されることになる。依然として中東は、エネルギー供給元であり続けられるということかもしれない。
極端な意見かもしれない、だがそれがいい
本書はマグネシウム文明の礼賛本(笑)であるため、都合の悪いことはあまり書いていない。そのことで、Amazonのレビューなどでは低い評価をつけている方もいる。しかし、小飼弾が「
新書がベスト」で指摘するように、新書とはそういうもの。これくらい極端な意見を、他の極端な意見と突き合わせて、自分で判断した方が我が身のためになる。たかがレーザーの研究をしているだけ(失礼!)で、社会のあり方まで提案してしまう、これくらいギラギラした人のほうが夢があって面白い、と感じる一冊だった。
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