2011/05/25

堀江貴文 「ホリエモンの宇宙論」



字が小さくて中身があるぞ
ご存じホリエモンが、宇宙開発について自身の見解を述べた本。読み始めて最初に思ったのは「(ホリエモンの本のわりに)字が小さいぞ」「(ホリエモンの本のわりに)中身が濃いぞ」ということ。本書以外にも、ホリエモンの本は何冊か読んできた。「稼げる 超ソーシャルフィルタリング」や「拝金」、「君がオヤジになる前に」はいずれも面白かったが、共通して感じたのは「字がデカい」「ページの割に中身がない」ということ。そのため、ガブ飲みミルクコーヒーを飲むようにスラスラ読んで、さっさと処分していた。ところが本書は、これまでの本とは違い、分量的にも内容的にも読み応えがある。そういえばどことなく、装丁も他の本より力が入っている気がするからか、未だに処分されず手元にある。

政府は宇宙科学を、枯れた技術は民間で
ホリエモンの主張は簡単に言うと下記のようなもの。

  • 政府の予算で宇宙開発を行うと、予算を得るために常に新しいものを作らねばならなくなり、オーバースペックなものができる
  • 軌道に人工衛星を載せるだけなら枯れた技術で十分
  • 政府がやるべきは「はやぶさ」のような民間ではできない宇宙科学のプロジェクト
  • 単純な打ち上げは民間にまかせ、ビジネスとして回すための環境作りをすべき

これらの主張のため、まずは冷戦時からの宇宙開発の歴史と、現在の世界の宇宙開発のトレンドを解説している。

冷戦時、敵国よりも優位に立つ手段であった宇宙開発は、やがてそれ自体が目的となり、公共事業に堕して停滞してしまった。世界初の有人飛行であったボストーク1号から8年3ヶ月で、人類は月面に立つという凄まじい進歩を遂げた。その頃に比べると、現在の開発スピードは極めて遅くなっている、という指摘は鋭い。

こうした状況を改善するため、アメリカでは既にNASAの運営する世紀の失敗作、スペースシャトルの退役が決まっており、国際宇宙ステーションへの物資輸送は民間に任せることとなっている。その役を担うのが、スペースX社の運用するファルコン9である。このスペースX社は宇宙開発のベンチャー企業であるが、NASAはかなり早い段階でファルコン9の前身であるファルコン1を利用していた。これはある種のベンチャー支援策であり、国の衛星を積極的に民間に任せて産業の育成を図っている。日本のような予算丸抱えではなく、こうしたやる気を失わない形での支援こそ、政府のやるべきこと、とのことである。

ホリエモン達「なつのロケット団」が狙うのはファルコン9よりも遥か下の市場。ホームセンターの材料で作れ、1000万円で軌道まで打ち上げられるものだ。エレクトロニクスの進歩により100g程度あれば立派な衛星が作れるようになり、小型のロケットで用が足りるようになったのだ。重量あたりの単価は高くとも、一回あたりの単価は安い、バイク便のようなロケットを目指しているとのことである。

宇宙開発の入門書に
あまり期待せずに買った本書だが、望外に面白かった。教養レベルの宇宙開発の歴史が一通り書かれているし、現在の宇宙開発の最新情報も書かれているので、宇宙開発の概要を把握するための入門書としても面白いのではないだろうか。しかし、ガイナックスつながりで「なつのロケット団」が結成され、ロケット作りが始まったとは驚いた。開始当時の試行錯誤も収録されているが、当初はまるっきり素人の集まりである。かつてDICON FILMが作っていた特撮やアニメのように、高品質で手作り感のあるロケットが完成するのであろうか(笑)。それなら楽しみだ。

堀江 貴文 講談社 2011-04-19
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