新興国の時代が来る
かつて原子力プラントの設計に関わった経験を踏まえた、福島原発事故の解説動画で注目を集めた大前研一氏。本業はコンサルタントであり、専門はビジネスと経済である。本書は勿論、本業のほうの知見を踏まえたもので、世界経済のパラダイムの転換と、それに対応して日本が採るべき戦略を解説したものである。nikkei BP netの連載などで普段から主張していることをまとめたような内容であるため、人によってはそれほど目新しい主張は無いかもしれない。途中、日本の輸出できるアイテムとして、原発について述べている部分があるのは皮肉なものだ。目次は以下の通り。
はじめに 第1章 超大国「G2」の黄昏 Ⅰ アメリカ-「唯一の大国」はいかにして崩壊したのか Ⅱ 中国 - バブル崩壊はいつやってくるか 第2章 お金の流れが変わった! Ⅰ 「ホームレス・マネー」に翻弄される世界 Ⅱ EU - 帝国拡大から防衛へのシナリオ Ⅲ 新興国 - 二十一世紀の世界経済の寵児 第3章 二十一世紀の新パラダイムと日本 Ⅰ マクロ経済政策はもう効かない Ⅱ 市場が日本を見限る日 第4章 新興国市場とホームレス・マネー活用戦略 Ⅰ 新興国で成功するための発想 Ⅱ 日本経済再成長の処方箋 おわりに |
G2からBRICs、そしてVITAMINへ
不動産の値上がりをATM代わりにして浪費を続けて来たアメリカ経済は、リーマン・ショックによって不動産バブルが崩壊し、それ以降復調の兆しがない。2010年にGDPで日本を抜いて世界2位に躍り出た中国も、その原動力は不動産という「打ち出の小槌」であり、バブルはいつ崩壊してもおかしくない状況である。
そんな中、先進国の年金、保険などの余剰資金や中東のオイルマネーが他の投資先を探し、「ホームレスマネー」となって世界をさまよい、世界経済を翻弄している。しかし、これらの資金は短期的な投機にばかり振り向けられているのではない。自国より将来有望な新興国、とりわけ著者がVITAMIN(ヴェトナム、インドネシア、タイとトルコ、アルゼンチンと南アフリカ、メキシコ、イランとイラク、ナイジェリア)と呼ぶ国へ流れつつある。
グローバル化と言えば、先進国の価値観が国境を越えて新興国に押しつけられるイメージもあるが、資金や起業が先進国に見切りをつけ、新興国に流出している現実もあるのだ。著者はこれを「グローバル化のアイロニー」と呼んでいる。
日本はホームレスマネーを活用せよ
このようなお金の流れの中、日本はどうすべきか。大きく分けて2つある。新興国でのビジネスを成功させること、ホームレスマネーを日本に呼び込むことの2つである。
新興国では官公庁へのインフラ輸出、法人への設備の輸出、そしてコンシューマの「ネクスト・マーケット」を攻めることが重要である。日本と違って発展する巨大新興国市場に注力することで、新しい成長戦略を描くことができる。
国内では道州制を導入して地域間での競争を促し、世界企業の呼び込み合戦をするのが一番だ。投資したくなるようなエクイティストーリーを作ることで世界の資金が日本に流入する。税金をバラまく必要はないのである。具体的なプランとして「湾岸100万都市構想」「駅前商店街の株式会社化」など著者のアイデアがいくつか紹介されている。
量的緩和が効かないワケ
個人的にいちばん「なるほど」と思ったのは、著者がよく主張している「マクロ経済政策は効かない」理由が述べられている部分だった。
単純に言うと、経済のボーダレス化が要因である。ボーダレス経済の世界では、金利を下げ大量の資金を市場に供給しても、国内には投資されず海外に流出するため国内の景気は良くならない。逆に景気の過熱を防ごうと金利を上げると、海外の資金が流入し、かえって景気は過熱する。従来のマクロ経済政策は逆効果になる場合があるのだ。
素人の感覚では、あまりこの点に触れている人はいないように思う。今だに金利の上げ下げばかり主張するエコノミストが多いのは大前氏が異端なのか、それとも・・・。
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