2010/12/12

真実一郎 「サラリーマン漫画の戦後史」

サラリーマン漫画の戦後史 (新書y)
 
 時代の変化に合わせ、進化を続けてきた日本のマンガ。本書はその中でもサラリーマン漫画にスポットをあて、世相との関連やそのルーツを探るものである。まず、サラリーマン漫画のルーツと、最も有名なサラリーマン漫画である「課長島耕作」との関連を解き明かした後、それぞれの時代のマンガについて考察を述べている。具体的な作品を、いくつかのカットと共に作者の背景も交えて紹介しているため、ちょっとしたサラリーマン漫画カタログとしても機能する。目次は以下の通り。

はじめに
第1章 島耕作ひとり勝ちのルーツを探る
第2章 高度経済成長とサラリーマン・ナイトメア
第3章 バブル景気の光と影
第4章 終わりの始まり
第5章 サラリーマン神話解体
あとがき

最大公約数の共感から、個別の疑似体験へ
 大衆の娯楽であるマンガは世相を鋭く反映するもの。本書では、高度経済成長期から現在にかけての、様々な視点からの世相とマンガの関連を指摘している。その中でも私が「なるほど」と思ったのは以下の点。

 親のような上司がいる家族的な会社を舞台に、営業や総務、宣伝などジェネラリストが多い部門に配属された男性正社員が、誠実な人柄で得た人脈を武器に、敵と対峙しながら成長する。源氏鶏太が高度経済成長期に確立させた、この「最大公約数」的なサラリーマン・ファンタジーは、高度成長の終わりとともにいったん姿を消したものの、80年代になると弘兼憲史の『課長島耕作』としてマンガの世界で蘇り、バブル景気の盛り上がりとともに、いくつものフォロワーやバリエーションを生んだ。

(中略)

 2000年代になると、マンガの中のサラリーマンたちは、島耕作の呪縛から解放されたかのように等身大に振る舞い始めた。出世に縛られずに、身の丈で好きな仕事に没頭する者。働きながら女としての幸せも模索する者。起業する者。転職する者。彼ら/彼女らは、もはや「最大公約数」のサラリーマンを代表しない。小さな会社の社員だったり、プログラマーだったり、女性だったり、転職者だったり、サラリーマンの中の一部でしかない彼ら/彼女らは、それぞれ自分の「特命」を生きている自分自身の代表だ。サラリーマン漫画の公約数は限りなく最小の“1”に近づきつつある。
p185-p186

「個」へのシフトが、マンガのプロット自体に影響を与え続けて来たということで、言われてみれば確かにその通りである。しかし、個別のマンガを読んでいるだけではなかなか気づかなかった点でもあり、素晴らしい分析だと感じた。

サラリーマンの明日はどっちだ
 これまで、数々のマンガで描かれてきた様々なサラリーマンたち。公約数が最小化した後はどのように変わっていくのだろう?かつては一億総中流と言われたものだが、一億総社長さん時代が来てサラリーマンという概念自体が消えていくのだろうか?はたまた、本書の筆者(現役サラリーマンでありながら物書き)のように、最大公約数の中にさらに幾つもの自分を持つようになるのだろうか?具体的な予想は難しいが今以上に多様性が増すことは間違いないだろう。揚げ足を取るようで恐縮だが、

 サラリーマン漫画の数だけ、働き方がある。
p189

では足りないくらいに。

Amazon >>
楽天ブックス >>

0 件のコメント:

コメントを投稿