2016/01/31

トラブル情報こそ本質 / MASAKI 「独裁国家に行ってきた」


 著者のMASAKI氏は、旅の途中で買い付けた各国の雑貨をヤフオクで売って旅費としつつ、204カ国を旅してきたという豪傑である。彼が訪れた国の中から独裁国家に的を絞り旅行記としてまとめたものが本書である。

 本書は一般的な書籍として見ると決してレベルが高いとは言えない。少し調べれば分かるようなことも憶測のまま書いてあるし、シンガポールとマレーシアが川で隔てられているという明らかな間違い(実際はジョホール水道)もある。有り体に言えばブログ記事を書き下ろしで出版したレベルである。

 しかし、情報のユニークさをバロメータとしてみた場合、他にはない一級品の書籍だと言えるだろう。著者が文字通り体を張って経験した数々のトラブルは、教科書には決して載らない、しかしリアルで生々しい各国の実情だ。

 著者は基本的にガイド付きツアーではなく単身、しかも陸路で入国することが多い。このため入国(あるいは出国)時のトラブルは日常茶飯事だ。サウジアラビアでビザ記載以外の航空券では出国できないことを知らず(アラビア語で書いてあるため分からなかった)、一時的に不法滞在になってしまったのはかわいいほうで、ベネズエラでは賄賂を拒否したため出国できず、苛烈な差別を受けながら長期の滞在を余儀なくされ、コンゴ民主共和国では大使館発行の正規のビザを持っていたにも関わらず賄賂を拒否して投獄される。ようやく日本大使館員に連絡をつけたと思っても接触を妨げるように監禁場所を変更されるなど、一歩間違えば命を失っていたのではないかと思えるトラブルが何度となく登場する。

 これらは決して「地球の歩き方」には出てこない情報だし、そもそもこんな経験をした日本人自体ほとんどいないだろう。こうした著者自身の希少性、そこから紡ぎだされる情報の希少性こそ本書の価値だと言える。現在著者は多くの国を行き来した経験を活かして、コンサルティングやガイド、また世界中に宿を作るプロジェクトにチャレンジしている模様。そこで積み重ねたユニークな経験を元に、さらなる「ならでは」の情報発信に期待したい。

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