2021/05/05

中銀デジタル通貨起ち上げの一部始終とブロックチェーンの未来 / 宮沢和正「ソラミツ 世界初の中銀デジタル通貨『バコン』を実現したスタートアップ」


世界初の中央銀行デジタル通貨を発行した国はどこかご存知だろうか?答えはカンボジア。名だたる先進国ではなく、東南アジアの小国なのである。意外かもしれないが、そこには小国であるがゆえのフットワークの軽さと、米ドル、デジタル人民元の間で通貨主権確立のために自国通貨の存在感を高める必要性という十分な理由があった。

デジタル通貨の名は「バコン」。本書のタイトルである「ソラミツ」はバコンにブロックチェーン技術を提供している日本初スタートアップの名前である。著者の宮沢氏はソラミツの代表取締役社長。かつてSONYでEdyの立ち上げに関わり、楽天Edyを経てソラミツに入社した経歴を持つ。

本書は、宮沢氏がソラミツ入社前、事前勉強として出社していた時期にカンボジアの国立銀行を名乗るTelegramのメッセージを受け取ったところから始まり、現地ヒアリング、提案から入札勝利、詳細な要件定義を経てシステムのパイロット運用(2019年7月18日開始)に至る一部始終を当事者自ら記したものである。

途中、ソラミツ自体の成り立ちやバコンシステムの概要も説明し、最後に日本における中銀デジタル通貨の現在位置、同社ブロックチェーン技術の国内導入事例として地域通貨やイベント通貨の紹介もおこなっている。

ユーザー目線で見てデジタル通貨と電子マネーの違いは分かりづらいが、ソラミツの提供するデジタル通貨とSUICAを始めとした電子マネーの違いは大雑把に言って以下の3点。
  • トークン型
  • 転々流通可能
  • ブロックチェーンによる分散管理

トークン型

SUICA等でカードの中に格納されているのは取引データだが、現金同等の価値を持ったデータそのもの(トークン)を格納する。取引データをまとめて翌月締めで銀行振込、というようなことはなく受け取ったらすぐ使える。

転々流通可能

トークンを移転するため人から人へ、企業から企業へ譲渡を繰り返すことができる。SUICAからSUICAにはチャージ額を移動できない。

ブロックチェーンによる分散管理

中央のサーバで全情報を管理しているわけではなく、それぞれの端末でトークンを格納する(その改竄防止にブロックチェーンを使う)形であるため管理コストが安い。

事業者目線で見た場合、トークン型になることでキャッシュフローが楽になるというのはかなり魅力的なポイントだろう。この実装自体には様々な方法が考えられるが、ブロックチェーンを使うことにより低コストで実現できる、というのがソラミツ社としては最も重要なポイントだろう。

もちろん、ブロックチェーン技術の会社だし、自社に都合の良いことを書いて当然なのだが、同時にブロックチェーンにおける懸念点(例えばスケーラビリティの問題。ビットコインはブロックチェーンの合意形成に時間がかかる。)やその解決案も述べており、フェアな書き方をしていると感じた。何よりEdyの起ち上げに関わった人物が、Edyの反省も踏まえながら書いているという点は重要だろう。

本書を読むまでブロックチェーン技術が暗号通貨以外でこれほど実用化されているとは知らなかった。しかし、一意性を確保したいデータを低コストで管理する技術だと考えれば、ブロックチェーンの応用先はまだ広がりそうだと感じる。

また、ソラミツ社の創業者武宮氏は、元々ウクライナ系アメリカ人だが日本文化に魅せられて日本に帰化したという変わった経歴の持ち主。それゆえかどうかは分からないが、創業時からグローバルマーケットを目指して活動しており、既にロシアにも開発拠点を持つ。日本製ソフトウェア技術の弱体化が嘆かれて久しいが、同社なら世界で活躍してくれるのではないかと期待が持てる。ブロックチェーンの広がりに乗ってソラミツの拡大にも期待したいところである。


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