2014/09/29

小野裕史 「マラソン中毒者(ジャンキー)」


 すごく元気の出てくる本です。著者の小野裕史さんはベンチャーキャピタルの経営者にしてマラソン中毒者というお方。溢れんばかりのバイタリティで、普通のフルマラソンは当たり前に、世界中のウルトラマラソンや数々の砂漠マラソンを走ってきました。心底マラソンを楽しんでいるその模様はブログを通じて発信されていたのですが、中でも北極点マラソン、南極100kmマラソン、アタカマ砂漠250kmマラソンにフォーカスしてまとめたのが本書になります。とにかくエキセントリックでポジティブな著者の行動に、自分の可能性も広がっていく気がしてきます。

 著者がレースにエントリーする動機はユニークで、「〇〇やれば世界初なんじゃね?」とか「〇〇なら世界一になれるんじゃね?」といったイタズラ精神あふれるものばかり。北極点マラソンでは忍者のコスプレをしておそらく世界で最初に忍者刀を北極点に突き立て、南極100kmマラソンでは一部ペンギンのコスプレで力走。そしてアタカマ砂漠250kmマラソンにはチーム戦なら優勝できる(世界一になれる)と踏んで出場。ニッチな分野のパイオニアを狙いまくっているあたり、さすがベンチャーキャピタルの経営者です。

 底抜けに明るい筆致もまた内容を盛り上げてくれます。南極100kmマラソンで便意を我慢しながら必死で走り、エイドステーションのトイレに駆け込む様など、実際に体験すれば地獄のような状況だと思いますが、むしろ楽しげに読めてしまうほどです。

 もうひとつ本書の良い所は豊富な写真です。極地でのマラソンや砂漠でのマラソンと言われても、日常生活からの乖離が激しすぎて文章の説明だけではなかなか想像しづらいもの。しかし本書は、現地の写真が豊富に掲載されていて大変分かりやすいのです。北極なんてどんな服装で走るんだろうとか、砂漠のマラソンってずっと砂の上を走るんだろうかなど、ふと湧いてくる疑問に豊富な写真が答えてくれます。

 あり得ないような体験の数々を笑いあり涙ありでまとめた本書、最も伝わってくるのは、何事もとりあえずやってみてポジティブに事にあたるという著者の性格です。一般人なら逡巡しそうなところも、とりあえずやってみる。それでも意外と何とかなるもの。そんな様を眺めていると自分にももう少し可能性がありそうな気がしてきます。人生のヒントとまでは言いませんが、オーバーポジティブな人間の毒気に当てられるくらいのつもりで一読してみては如何でしょうか。


 余談ですが、表紙写真の帽子が気になって、ダメ元で著者の小野さんにTwitterから尋ねてみました。すると、わずか5分でリプライがあったばかりか商品のリンクまで送って頂けました (ありがとうございました!) 。麦わら帽子のようですが、よく見るとジュート (麻) のような質感でもあり何だろうと思っていたのですが、Papyrus Brim Hatというものでパピルスを使った織紙生地の模様。すぐさまポチッと…。


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