モバゲーやモバオクなどを運営するDeNAの創業者、南場智子さんがここまでの歩みをまとめた1冊です。
DeNAといえば一般的なイメージはモバゲーだと思いますが、創業時のサービスはビッダーズというネットオークションでした。創生期のネットオークションは、今も業界トップのヤフオク!(当時はYahoo!Auction)が手数料無料でサービスを開始し、ユーザーが増えたところで売上の3%を出品者に課すという、いわゆるヤフー税の導入を口火に手数料値下げ合戦が勃発、ビッダーズやWANTED、楽天オークションを交えて主導権の取り合いが繰り広げられるというエキサイティングな業界でした。
当時、私はちょうど大学生で、卒業する先輩から押し付けられたガラクタ(皿回しセットとか地蔵マスクとか)をせっせとオークションに出品しては小金を稼いでいました。そのためビッダーズにもいち早くアカウントを作っていたユーザーであり、ヤフオク!との攻防戦についてのくだりは当時が思い出されて胸が熱くなりました。
当時は「オークション統計ページ(仮)」という個人サイトを眺めて、各サービスへの出品数などを確認し「こっちは手数料高いけど人が多いから売れやすい」「一方こっちは手数料安いけど人が少ないから高値がつきにくい」などと素人なりに戦略を考えていたのですが、なんとこの「オークション統計ページ(仮)」、南場さんはじめDeNAの創業スタッフの皆さんも参考にしていたとのこと。
しかも参考にするだけではなく、あまりに使いやすいということでサイト運営者をスカウト、技術者として採用します。実はそれが現在のCTO、川崎修平氏で、彼は入社後モバオクの基礎とモバゲーの基礎を1人で作り上げることになるのです。さらに彼の運営していた「オークション統計ページ(仮)」も、オークファンとして2013年4月に東証マザーズに上場。ちょど学生時代に外から眺めていた業界の内側で、このようなサクセスストーリーがあったのかと思うと何やら歴史の証人になっていたようで込上げてくるものがあります。
とはいえ、本書に登場するのはそうした明るい話ばかりではなく、まえがきに「誰か遠い他人の仕業と思いたいほど恥ずかしい失敗の経験こそ詳細に綴ることにした」とあるように、むしろ失敗談がメインです。下らないものから重大なものまで、多くの失敗が出てきます。本書を読んで最も強く思ったのが、マッキンゼーとオラクルのエリートを集めてやっていてもこれだけ失敗するのか、ということです。そういう意味では、重要なのは失敗をしないということではなく、失敗からのリカバーが上手いということなのかもしれません。
もうひとつ印象に残ったのが、大前研一氏の存在です。南場さんはマッキンゼーのコンサルタント出身で当時の日本支社長が大前さんという間柄。大前さんは下記のように節々で登場します。
- エンジニアの引き抜きに抗議に来たオラクルの佐野社長は、大前さんと並んで父以外で怖いと思った男性の2人目。
- 就職先は父が決める条件で進学させてもらっていたが、勝手にマッキンゼーの内定をとってバトル覚悟で連絡すると「おぅ、あの大前研一で有名なマッキンゼーか。おめでとう。」と予想外の反応。
- 当時のマッキンゼーにはビジネススクール不要という大前さんの考えに基づき留学制度はなかったが、コソコソ受験して行くことを伝えると大前さんの部屋でこっぴどく叱られた(が留学はできた)。
- ビッダーズのオークションイベントとして「大前研一に電話で15分間罵倒される権利」を企画した。大前さんにお願いに行ったら「そんなくだらん仕事は早く辞めてオレの仕事を手伝え」と罵倒付きで快諾してくれた。大前さんは落札者を事務所に招いて経営アドバイスをした。
- 東日本大震災発生時に福島原発の状況が不透明だったが、専門家のコメントを総ざらいして吟味した結果、一番信頼できる情報源は大前研一さんだと判断し、毎日5回は電話で話し、原子炉の状態や今後のリスクなどを指南してもらった。
ざっとみると、大前さんは大変厳しく怖い方である一方、懐深く面倒見のよい人のように思えます。本書には似たような方がもう1人登場しており、それは南場さんのお父さんになります。大変に厳しかったお父さんと丁々発止のやりとりを繰り広げてきた南場さんですが、ある時から「面白い人かもしれない」という気がしてきたとのこと。お父さんとのやりとりを通じて、ある種の「転がし方」のようなものを身につけたことで、インフラとしての大前さんを上手く活用できたのではないか?そんなことを思いながら本書を読んでいました。
南場さんの軽妙な文章は暗い失敗も面白おかしく読ませてしまう独特のものがあります。ビジネス書というよりはエッセイや読み物として、とても読みやすいオススメの1冊だと思います。
不格好経営―チームDeNAの挑戦 南場 智子 日本経済新聞出版社 2013-06-11
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