2011/06/04

西原理恵子 「ぼくんち」



とにかく強烈
とある港町の底辺で力強く生きる、「おねえちゃん」「一太」「二太」の兄弟を描いた物語。主に、幼いながらも冷めた観察眼を持つ、二太の視点で描かれる。内容は「強烈」の一言。「おねえちゃん」は蒸発した母に代わって、風俗に勤めながら弟たちを養っている。周囲には覚醒剤中毒の人間がワンサといるし、一太は地元のチンピラの「こういちくん」の舎弟となって注射器を売り歩いたりもする。人の命はとても軽く、傷害、病気、事故、薬物中毒でバンバン人が死んでいく。人間的にもどうしようもない人ばかりが、異様なリアリティで登場するマンガだ。

半ば自伝のようなもの
サイバラが自らの半生を綴り、お金の大切さを記した「この世でいちばん大事な『カネ』の話」と併せて読むと、このリアリティの源泉が分かる。かなりの部分、実体験に根ざしているのだ。サイバラ自身、地方の工業都市で貧しい生活を送っていた。本作の「おねえちゃん」は、なけなしのお金をはたいて、サイバラを東京へ送り出してくれた母親がモデルでは無かろうか。やたら心に響く、人生訓のような台詞を吐くし。また、「二太」の妙に冷めた視点は、幼い頃のサイバラ自身をモデルにしているのではなかろうか。「この世でいちばん大事な『カネ』の話」に書かれている、周囲への観察を読むと、そんな気がする。

「おねえちゃん」の名台詞
「泣いたら世間がやさしゅうしてくれるかあっ。
泣いたらハラがふくれるかあ。
泣いてるヒマがあったら、笑ええっ!!」

この内容をコミカルに描ける凄さ
社会の底辺に生きる人々を、陰鬱に描ける人はたくさんいる。しかしこの本は、全編を通じてコミカルで明るく、時にホロッと泣かせる部分もあり、娯楽として一級品のマンガになっている。この明るさこそがサイバラの凄いところだ。こんな内容を、こうも明るく、でも含蓄のある形で描ける人はなかなかいない。大笑いしながら読めるが、でも、心の中に何かが残っている。不思議な傑作である。

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