全額自腹で宇宙開発を行う町工場
著者が専務を務める会社、植松電機は、リサイクル現場でパワーショベルに付けるマグネットを作る、北海道の中小企業である。本業で稼いだ資金をつぎ込み、全額自腹でロケット開発を行っている。
スペースデブリ回収のためのロケットを一応は想定しているものの、将来的なビジネスとして深く考えているわけではない。ロケット開発を通じて得られるものは、お金以外にたくさんあるというスタンスのもと、最終的に“「どうせ無理」という言葉をこの世からなくす”ために宇宙開発を行っている。
栗城史多という登山家がいる。無酸素単独登頂でエベレストからのUstream中継を敢行した、「どうせ無理」の固まりのような人物で、ご存じの人も多いと思う。彼の夢はさらに破天荒で、太陽系の最高峰、火星のオリンポスに登頂すること(ラジオ版学問ノススメ参照)。著者は、そんな彼に「宇宙に連れてってあげる」と言ったそうだ。
大事なのは、自分でやってみること、あきらめないこと
著者はとにかく何でも自分で作る。真空中のテストを行うための設備、極低温のテストを行うための設備、無重力のテストを行うための設備、どれもレンタルに多額の費用が掛かることが分かると、しくみを調べ自分たちでつくってしまった。このうち、無重力の実験施設は世界で3番目の設備であり、現在はNASAの研究者までが訪れるようになっている。
ロケットも含め、こうしたものづくりのコツはあきらめないこと。あきらめず工夫を続ければ、状態が少しよくなる。これを積み重ねれば、いずれ問題は解決するのである。
作っているのは未来
ロケットを作っている植松電機だが、つまるところ本質的に作っているのは、人間であり、人間の未来なのだと思う。ロケット開発を通じて「どうせ無理」ではなく「だったら、こうしてみたら」と工夫のできる人間を作っている。それは、そうした人間が作る未来を作るということだ。これは逆をいえば、自分の頭で考え工夫できる人間が減っている現代への警鐘でもあるだろう。
ホリエモンとの関わり
余談だが、植松電機はホリエモンら「なつのロケット団」に設備を提供している。当初、出資の申し出を門前払いしたエピソードが本書では軽く触れられている。
その後、思いのほか真剣な「なつのロケット団」の活動をうけて、設備提供という形で協力関係なるのだが、そのエピソードは「ホリエモンの宇宙論」で触れられている。併せて読むと面白いかもしれない。
NASAより宇宙に近い町工場 | ||||
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ホリエモンの宇宙論 | ||||
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