2024/03/23

コロナ後遺症の研究から明らかになったうつ病のメカニズム / 近藤一博「疲労とはなにか」

おっさんになると普段のステータスには「疲れている」「とても疲れている」「めちゃくちゃ疲れている」くらいしかバリエーションがなくなり、疲れとの付き合い方は喫緊の課題となる。そんなわけで、「そもそも疲れるってどういうことなんだ?」と思い、安心のブルーバックスである本書を手にとってみた。

まず、重要なのは「疲労」と「疲労感」は別の事象であるということ。「疲労」は過剰な動作によって身体の働きに問題が出ている状態だが、「疲労感」はあくまで脳が「疲労がある」と感じていることにすぎない。つまり疲労感はあっても疲労はないという状態やその逆があり得る。

これを踏まえて、では「疲労」の正体とは何か?
「疲労」とはストレスによって身体がタンパク質の合成を止め細胞の停止や細胞死が生じることである。そして、「疲労感」とは疲労に対する統合的ストレス応答(ISR)のひとつとして産生された「炎症性サイトカイン」が脳に到達して生じる感覚である。

一般的な、休めば回復する疲労は生理的疲労と呼ばれ、休息によってタンパク質の合成は回復し炎症性サイトカインも取り除かれる。一方で休んでも回復しない疲労は病的疲労と呼ばれ、代表例としてうつ病がある。

うつ病の場合は、脳に到達した炎症性サイトカインが原因となって脳に炎症が発生し、継続する。一般的な疲労の場合、この炎症は身体の火消し機能によって抑制されているが、うつ病の場合はこの火消し機能が効かなくなっている。火消し機能が効かないことで炎症は継続するし、わずかな炎症性サイトカインでも大火事に発展する。ちょっとした負荷でも疲労感が出てしまうのはこうしたメカニズムに拠る。

火消し機能を阻害するのはヒトヘルペスウイルスが産生するSITH-1というタンパク質である。ヒトヘルペスウイルスはほぼ全ての人に潜伏しており、宿主が疲労した際に活性化し、SITH-1を産生する。このSITH-1が細胞を破壊して火消し機能を阻害し脳に炎症を起こすというのがうつ病の正体である。

実はこのメカニズムは長らく分かっていなかったが、コロナ後遺症のブレインフォグが似た症状であることから研究が進み、先にブレインフォグのメカニズムが解明されたことがうつ病のメカニズム解明にも繋がった。ブレインフォグの場合はSITH-1ではなくコロナウイルスのスパイクタンパクが火消し機能を阻害するが、以降のメカニズムはうつ病と同じである。

また、スポーツ選手に多いオーバートレーニング症候群もヒトヘルペスウィルスの活性化要因がトレーニングにある程度の違いであり、本質的なメカニズムはうつ病と同じである。

メカニズムが明らかになったことで、これまで炎症の原因を減らすような方向だったうつ病治療薬の開発も、火消し機能をサポートするような方向で治験が進んでいる。SITH-1自体は20年前に見つかっていたが、それがうつ病の原因であるとは特定できず、新型コロナウイルスの登場によって初めて分かったというのは何とも皮肉であり、自然科学の複雑さを象徴する話でもある。

本書は、こうした生理的疲労、病的疲労のメカニズムを最新の研究結果を交えて紹介する他、エナジードリンクは本当に疲労回復するのか?ビタミンB1が疲労回復に効くというのは本当か?軽い運動が疲労を回復させるのはなぜか?といった身近な話題もコラム的に盛り込んでおり、硬軟交えて疲労や疲労感について学ぶことができる。

疲労や疲労感のメカニズムを知れば自分なりに工夫して疲労を管理できるようになるし、疲労回復を謳う物品の妥当性もある程度は自分で判断できるようになるだろう。特に疲労が気になる年齢層の方々にとって、有益な一冊であると思う。

2024/02/12

腐れ学生フィールド・オブ・ドリームズ。/ 万城目学「八月の御所グランド」を読んだ。

 

久しぶりに小説を買った。万城目学が6回目のノミネートにして遂に直木賞に輝いた「八月の御所グランド」である。16年ぶりに「ホーム」京都を題材に書いた本作は、全国高校女子駅伝を題材にした短編の「十二月の都大路上下ル(カケル)」と書名でもある中編「八月の御所グランド」の2編を収録。合わせて200ページほどで気軽に読める一冊である。

「十二月の都大路上下ル(カケル)」は、ちょっとした「非日常」を除けばオーソドックスな青春小説であり、こちらも面白いが、注目すべきはやはり「八月の御所グランド」だろう。

大学の夏休み、主人公は借金のカタに「たまひでカップ」なる野球大会に駆り出される。駆り出した友人も単位のためにゼミの教授から強制されて参加している。序盤は暑い京都の夏に早朝から中1日で5試合という、”酔狂ではなく、単なる「狂」の行動"が、消極的参加ゆえの微妙なテンションで淡々と展開される。

しかし、人数合わせのために飛び入り参加した留学生のシャオさんが「非日常」に気づいたところからにわかに雰囲気はミステリチックになり、読者の心をざわつかせる。「たまひでカップ」の真の意味、何故かいつも人数が揃う理由…「非日常」に対する明確な答えは提示されないが、しかし、爽やかなサプライズとともにぼんやりとした納得感が得られる締め方で物語は終わる。

気がつけば消極的参加であった主人公たちの「たまひでカップ」に対する態度は一連の出来事を通じて変化している。そして読者諸氏の人生への考え方も少し変化しているかもしれない。淡々と話が進み、気が付けばちょっとだけ登場人物が変化、成長している、こういう話好きなんですよね。面白かったです。

それにしても留学生のシャオさんは良いキャラだ。「烈女」という造形が大変魅力的であることに加えて、誠に都合の良いキャラでもある。野球の人数が足りない時に助けてくれるのもシャオさんだし、普通の腐れ学生ならやらなさそうなことを担当して物語の進行を円滑にしてくれるのもシャオさんだ。エヴァンゲリオンで言えばマリのようなポジション。仮に映像化されるとしたら、真っ先に気になるのはシャオさんの配役である。

2023/12/16

finetrackのアンケートに答えて粗品を貰った

実際に使った製品やサービスに対し、どれくらいの人が真剣にフィードバックを送っているのだろうか?送っても実際の製品やサービスに反映されることなんてないし、そもそも読んでいるのかすら疑わしいと思っている人は多いと思う。

自分はとあるメーカーで製品開発の仕事に就いているのだが、少なくとも勤務先ではユーザーからのフィードバックには比較的注意を払っており意思決定の場面で大きなヒントになることもある。メーカーサイドは何だかんだでユーザーのことをよく分かっていないので、建設的なフィードバックは貴重な情報なのである。

そうした個人的な経験から、製品・サービスに関するアンケートにはできるだけ真面目に答えるようにしている。その時、書くようにしているのは概ね以下の内容。

  • どういう用途に、どのように使おうと思ってその製品・サービスを購入したか
    • 言い換えれば、その製品・サービスでどのような問題を解決しようとしたか
  • 購入後どのように使っているか
  • 満足している点
  • 不満足な点
  • 改善して欲しい点とその方法
まず提供サイドは何でその製品・サービスが売れたか知らないので、最初にそれを書く。こういう意図で買ったと。で、意図通りに使えているか、使えていないか、改善するとしたらこの辺ですかね的なことを、あくまで個人的な見解ですよというスタンスで書いている。要するに自分が貰ったら嬉しいフィードバックを書いているのである。

ということを続けていると稀に粗品が貰える。先日はアウトドアメーカー、finetrackの製品に関するアンケートに答えていたところ、マルチ消臭スプレーに当選した。


通常こういう粗品は抽選となっていることが多いが、適当にアンケートを書いている人よりは真面目に書いている人にあげたくなるのが人情ではなかろうか。つまり真面目に書いたほうが当選確率は上がるのではなかろうか。そんなわけで、
  • 中の人は意外とフィードバックをちゃんと読んでいる
  • 真面目なフィードバックのほうが粗品を貰いやすい(はず)
という2点を踏まえ、みんな真面目なフィードバックを送ると良いと思う。所詮は1票なので、書いたことがみんな反映されるわけではないけれど、自分の使っている製品・サービスが自分好みの方向に変わっていくのは嬉しいことのはず。ついでに粗品も貰えれば最高だ。さあ、みなさんアンケートに答えましょう。


2023/11/15

AirFly AF-301のレンズが折れたので、レンズだけ買い直して交換したらやたらクリアな視界になった

ランニングの際にはジゴスペック社のAirFlyというサングラスを使っている。これは、ノーズパッドの代わりに左右こめかみ付近に配置されたサイドパッドで支えるというユニークな構造のサングラスで、ノーズパッドがない分、汗が溜まらないところが快適で気に入っている。いくつかモデルはあるが、フレームレスのAF-301に偏光ブルーミラーレンズのC-5WVを付けて使っている。

が、先日かけようとしたところ、ものの見事に真ん中で折れてしまった。人前で「マジかー」と声が出てしまったのは生まれて初めてである。ちなみに買ってからだいたい3年が経過していた。

真ん中で折れたレンズ

仕方ないので帰宅後早速、交換レンズを注文。同じ偏光ブルーミラーレンズのC-5WV。選択した理由は偏光かつ透過度が一番低いというところ。レンズが交換可能であることは、最初に調光レンズで買っていたこのサングラスを偏光ブルーミラーに交換した経験から知っていた。

そして届いたのが冒頭の写真のレンズ。折れたレンズと比べて色が濃いような気がする。

上が新品、下が旧品
級品は色褪せしているように見える

 かけてみても旧品に比べて段違いにクリア。この違いは3年で旧品が経年劣化していた(偏光フィルターは劣化するって言いますよね)からなのか、代替わりしてレンズの性能が上がったからのか…ユーザーからは知る由もありませんが、仮に経年変化要因だとして、これくらい変わるなら3年ごとに買い替えてもいいなと思いました。

2023/11/06

横浜マラソン2023に出場してきた

今年は地元の金沢マラソンに落選したので代わりに同日開催の横浜マラソンに出場してきた。今年は、と書いたが昨年も落選し代わりに水戸黄門漫遊マラソンに出場していた。今年横浜マラソンを走ったことで日本三大(自分調べ)10月末マラソンを走ったことになり、心の中で密かな達成感に浸った。

ざっくりとした感想は以下のとおり。

良かったところ

  • 荷物預けと更衣室にパシフィコ横浜を使っているので広くて快適
  • スタート前の待機エリアすぐ横に仮設トイレがあって便利
  • コース上のエイドとトイレの数が非常に多い
  • エイドでランナーが分散するよう、ランナーごとにテーブルを指定する工夫がある
  • 高速道路を走る体験はユニーク
  • 首都高登って遠くにランドマークタワーが見えるとアガる
  • 周囲の施設、公共交通機関が充実しているのでマラソン前後も便利

良くなかったところ

  • 公認コースではない
  • スタート前のトイレはたくさんあるが、どこにどれだけあるか分かりにくい
  • 事情は察するがファンランの人と同時かつ混合でスタートするので走りにくい
  • 首都高の下を走る部分が多いのでGPSが狂いがち

その他感じたこと

  • 規模の割にランナーしか入れないエリアの規制が緩いので防寒着などをスタート直前に知り合いに渡すようなことができそう
  • 大きな高低差は少ない(首都高登るくらい)が橋を渡るなど細かいアップダウンはある
  • 都市型マラソンだが工業地帯と首都高がメインなので意外とギャラリーは少ない
    • ただし各エイドにチアや吹奏楽やフラダンスといったパフォーマーがおり、エイドでの応援はアツいしボランティアの方も温かい
    • さすがに赤レンガ倉庫辺りまで戻ってくるとギャラリーは多くなる
  • 首都高はあまり防音壁がないし高いところを走るので風が吹くとツラい(今回はひたすら向かい風だった)

以下、前日、当日の写真など。


前日、せっかく横浜に来たし、天気も良いということで「脳がバグるビル」ことザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜を見物。


桜木町の駅前でランナーセットを受け取り。


弁天橋から見る、桜木町、みなとみらい。


桜木町駅から運河パークを結ぶロープウェイ。YOKOHAMA AIR CABIN。


乗ってみました。630mで¥1,000。


乗り場。乗り場も、乗った感じもスキー場のゴンドラでした。


夕食はココイチで。直前にMGCで活躍した川内優輝選手にあやかってパリパリチキンとソーセージのトッピング。ライスは400g。


翌朝。朝日に映えるランドマークタワー。その横がスタート地点。


荷物預けのためパシフィコ横浜まで歩きました。


広くて便利なパシフィコ横浜。


何やかんやでサブ4でゴール。途中「Vibramカッコいいっすね。頑張ってください。」と言ってくれたお兄さんありがとう。


レース後はMIDTOWN BBQへ。DeNAベイスターズのトレバー・バウアー選手が本格的なアメリカンBBQが食べられる店だと推薦していたところ。


バウアー推薦のA5 Wagyu Brisketプレート + 3サイド(バターロール、グリル野菜、フライドポテト) + コーラ。肉のホロホロ具合にびっくりしながら美味しく頂きました。店内の雰囲気も最高でした。

というわけで、諸々堪能できた横浜マラソンでした。

来年も金沢マラソンには落選する可能性があるので、その時は(これまた同日開催の)しまだ大井川マラソンinリバティあたりに出てみようか。