アジア人初のピオレドール生涯功労賞を受賞した登山家の山野井泰史氏。その歩みが今年「人生クライマー」という映画になり、その公開を記念してご本人も登場するトークライブが配信された。
その中で山岳映画の話が出た折、スペシャルゲストとして出演のサバイバル登山家、服部文祥氏が「ノンフィクション(映画)には面白いものがあるが、フィクションになると山を舞台にした〇〇(例えば恋愛映画など)になりがち。」「一方、マンガには登山者のハートをストレートに表現しているものがある。」という趣旨のことを仰っていた。
そこで「登山者のハートをストレートに表現している」作品として紹介されていたのが塀内夏子の「おれたちの頂」と村上もとかの「岳人(クライマー)列伝」である。どちらも知らない作品だったが言葉巧みな服部氏の説明に大いに興味が湧いたので早速購入してみた。
おれたちの頂
優等生タイプの邦彦と勝ち気な性格の恭介が15歳で出会い、成長しながらコンビを組んでヒマラヤの高峰に挑む青春山岳マンガである。何せ40年近く前のマンガなので画のスタイルは時代を感じるが、作者の塀内さんが山岳部の出身ということもあって登山の描写は本格的。
コミカルなところはコミカルに。しかし登山部分の描写には相当な迫力がある。また、冗長になり過ぎない適度な説明が入り山の知識がない人でも問題なく楽しめる。
話の構成もよくできており、2人が出会って成長し、途中山を辞めようかという危機もありつつ、老害に邪魔されながらも理解者の大人に導かれて世界的なクライミングに挑むようになるという、少年マンガの王道と緻密な山岳描写の絶妙なコンビネーションになっている。これが文庫本1冊になっているので内容は相当濃く、コンパクトにまとまった傑作だと思った。マガジンコミックスで絶版の後、山と渓谷社からこの復刻版が出たというのも頷ける作品である。
岳人(クライマー)列伝
「六三四の剣」や「JIN-仁-」で有名な村上もとかによる山岳マンガ短編集である。基本的に1話完結でそれぞれの話は独立しているが、アン・プルバというシェルパだけはヒマラヤのエピソードに共通して登場する(年齢はバラバラ)。「おれたちの頂」がいかにも昭和のサンデー、マガジンな画だったのに対し、こちらはいかにもビッグコミックスな画だという印象。
まったく登山経験がないところから始めたという村上氏だが、さすがのリサーチ力で、全く違和感のない描写に仕上げている(とは言っても読んでる私も素人ですが)。それぞれのエピソードは極限状態になった時に表れる人間(登山家)の本質みたいなものの描写に力を入れている印象で総じてアツい心情が伝わってくる。それゆえにエピソード内死亡率も大変高い…。
フィクションでありながらこれだけ濃い内容の1話完結エピソードを量産できるあたり、ヒット作を続けて出せる漫画家の創作力のすごさを改めて感じる1冊だった。
おれたちの頂復刻版 塀内夏子 山と渓谷社 2014年05月 売り上げランキング :
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山野井さんの軌跡は映画だけでなく、クロニクルとして書籍にもまとめられている。
もうひとつ、夢枕獏の小説を谷口ジローが漫画化した「神々の山嶺」も好きだ。国内でもフランスでも映画化されている。CHRONICLE 山野井泰史 全記録 山と溪谷社 2022年07月13日 売り上げランキング :
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神々の山嶺(いただき)(1) 夢枕獏/谷口ジロー 集英社 2006年10月 売り上げランキング :
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