著者のやまとけいこ氏は出版時点で薬師沢小屋通算12シーズン勤務のベテランアルバイト。
普段は山や旅のイラストレーターとして活躍されているとのこと。学生時代はワンゲル部に所属していたという筋金入りの山屋がそのまま山関係の仕事をしている形だ。
個人的にはこの手の本は初心者バイトによるびっくり日記や山小屋経営者(それこそ「黒部の山賊」の伊藤正一さんのような)によるものが多いイメージだが、
本書はベテランバイトというどちらでもない立場からのもので新鮮。
内容は、小屋開けからハイシーズンを経て小屋閉めに至る1シーズンを時系列で追いながら、その間で起きる出来事を過去の話も含めた紹介がメイン。
途中、山小屋の法的な位置づけや、遭難時の対応、著者が大好きなテンカラ釣りなど周辺環境の紹介も入ってくる。前述の通り、ベテランのアルバイトであるため非常の落ち着いた、時に達観した目線での書き口になっていてとても読み心地が良い。
しかし、環境はなかなか過酷。山小屋スタッフの個人スペースは1と1/3畳。
一度山に入ったら小屋閉めまで降りないため途中で衣類が破損すると悲惨なことになる。
動物や自然との共存も大変。ヤマネがヨーグルトに落ちて溺れていたみたいなコミカルな話もあれば
ツキノワグマに小屋の中に侵入されたというシビアな話もある。
薬師沢小屋は谷底にあるため、気軽に渓に降りていると鉄砲水で死にそうになることもある。
こうしたエピソードを、ふんだんに盛り込まれるイラストや写真で紹介してくれるのだが、イラストがとても良い。
すっきりした画風は個人的には大変好みで、画としても見ていて楽しいし内容の理解にも役立ってくれる。
そんなイラストにひとつでもある冒頭の手書き地図を見て、(伊藤正一さんが開いた)雲ノ平山荘はお隣に当たるのだな、と思っていたら、
伊藤正一さんや現オーナーの二朗さんについての記述も出てきた。別資本ではあるけれども今は山小屋同士協力し合うような体制もできつつあるそうだ。
山小屋同士が連携していれば登山者としても心強く感じることだろう。
自分は登山は全然しない人なのだが、本書を読んでちょっと黒部源流域に行ってみたくなった。
ということは、元々興味を持っていた人の中には本書を読んで実際に薬師沢小屋を訪れる人もいることだろう。 何せそれくらい黒部源流域の魅力が伝わってくる1冊なので。
ところで本書、山と渓谷社から出てるのですが、著者のお名前(本名っぽい)は山と渓谷社の申し子みたいですよね。すごい。
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