2011/07/30

廣川まさき 「ウーマンアローン」



女ひとり、ユーコン川1500kmの記録
 新田次郎の小説に「アラスカ物語」というものがある。アラスカの大地で、エスキモーの部族と共に生きた実在の日本人、安田恭輔の物語である。アラスカのフェリーの中で出会った人からその物語を聴いた著者は、安田恭輔に魅せられ、安田恭輔が暮らした村(ビーバー村という)への訪問を決意する。ビーバー村には道路は通じていない。行くには、カナダからアラスカに流れるユーコン川を下っていくか、飛行機で行くしかない。著者が選んだのはカヌーだった。第2回開高健ノンフィクション賞受賞作品でもある本作は、著者が女ひとりでユーコン川を1,500km下った旅の記録である。

人々は暖かく、自然は冷徹
 ひとり旅とはいえ全行程でひとりなわけではなく、旅の途中で著者は多くの人と関わる。ビビる著者を励ましたり、キングサーモンを奢ってくれたり、安否を気遣いに来てくれたりと皆温かい人ばかりだ。対照的に自然は冷徹だ。突風と波は何の前触れもなくカヌーを襲い、夏の太陽と夜の冷え込みは日焼けと霜焼けで著者の気力、体力を奪う。厳しい自然と、そこに生きる人達の温かさのコントラストが鮮やかだ。

小粒だが中身はきっちり
 もう1つ印象に残ったのが著者の成長である。この旅で初めてカヌーに乗ったという初心者の著者だが、ユーコンの大自然に揉まれるうちに精悍さが増してくる。以下は、命からがらな経験をした後に心境を綴った部分。

今まで、死んでもいいという覚悟で何でもやってきた。だが、そんな無責任な覚悟は、きっと覚悟ではない。
生きてやる。生きてやる覚悟。それが、よくわかった。
224ページ

命に対する覚悟の質が確実に変わっていて凄みを感じる。
 実のところ、ユーコン川は地元の人の交通路でもあり、この旅自体は未開の土地を行くような難易度の高い旅ではない。小粒の冒険記だ。しかし、巧みに描写される人々と自然のコントラストに、著者の成長と、きっちりした中身は飽きることなく読めた。逆に「これくらいなら自分でも」と思ってしまうので、ある意味では危険な一冊かもしれない。

ウーマン アローン

廣川 まさき 集英社 2004-11-18
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アラスカ物語 (新潮文庫)

新田 次郎 新潮社 1980-11
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2011/07/24

GSA 2011 に参加してきた

 7/17に会社の物好きで連れ立って、岐阜県飛騨市神岡町で開催された GSA(GEO SPACE ADVENTURE)2011 というイベントに参加してきた。単純に言うと、スーパーカミオカンデの見学ツアーで、地元の有志の方が企画している手作りイベントである。

 スーパーカミオカンデはニュートリノ以外の宇宙線をカットするために、神岡鉱山の跡地に作られている。要は、他の宇宙線は山を通り抜けられないので、地中に作ればニュートリノだけを観測できる、ということ。そんなわけで、神岡振興事務所に集合した参加者は、バスに乗り換えて跡津坑道まで移動。坑道前でひとしきりツアーに関する説明を受けたあと坑道内へ。坑道内は年間通じておよそ14℃のため、冬服を持参する必要がある。また、我々は運良く抽選に当たったが、競争率は2倍だった(50人のツアーが2日間で計20便ほど開催されるので、1,000人の枠に2,000人の応募があった)とのこと。

坑道入口。冷たい風(14℃)が吹き出していて寒い。

小型のバスに乗り換えて坑道に入る。

 まずは、神岡鉱山についての説明。中世から昭和に至るまでの歴史の解説や、重機のデモがあった。

発破を仕掛ける為の穴を空ける重機(ドリルジャンボ)。
すごい音を立てながら実際に穴を空けた。

ドリルジャンボのアーム。

ドリルジャンボのドリル。
掘り出した鉱石を運ぶためのローダー。

ローダーの操縦席。速度計は30km/hまで。
タコメーターは3,500rpmまで。

 そして、スーパーカミオカンデへ。東京大学の研究室の方が、ニュートリノやスーパーカミオカンデの説明をしてくれた。スーパーカミオカンデの超純水が入っているプール自体は10年単位で閉め切っているため見ることは出来ないが、その上部にあるドーム状の部分にまで行くことができる。途中、コントロールルームっぽいところもチラ見できた。スーパーカミオカンデ自体は24時間365日稼動しており、誰かしら研究者が常駐しているとのこと。

図面を記したプレート。

整理整頓が行き届いてないところは研究施設らしい。

光電子増倍管。

スーパーカミオカンデ上部のドーム部分をパノラマ撮影。

 スーパーカミオカンデを後にすると、しばらく坑道を歩く。そして、坑道内で完全に明かりを消しての暗闇体験、プリズムを使った分光体験、ランタンのマントルと簡易霧箱を使ったベータ線の観測体験が開催された。ベータ線の観測実験は面白くて、アルコールの蒸気で満たされた霧箱の中でマントルからベータ線がでると、飛行機雲よろしくシラスのような線状の霧が出る。さすがに物好きばかりが集まっているからなのか、みなさん食い入るように霧箱を見つめていた。

坑道内はこんな感じ。コンクリが吹きつけられている。

ベータ線を観測する簡易霧箱。

 最後に、同じ坑道内にある東北大学の研究施設、カムランドの説明を受け、坑道内の売店で休憩&おみやげ購入をしてツアー終了。自分はポストカードと、宇宙つながりで売られていたNASAの宇宙食(Ice Cream)を購入。あとは坑道を抜け、神岡振興事務所までバスで戻って解散となった。

 有志による手作りイベントということで、粗を探せばいくらでも出てくるのだろうが、それ以上に地元の方の熱意を感じる素晴らしいイベントだった。鉱山自体は既に閉山しており産業的には苦しいと思われる神岡だが、こうした方々の努力や工夫が良い未来に繋がることを願いたい。というわけで、神岡の名物B級グルメ、とんちゃんを買って帰りました。

飛騨牛のもつ料理。元々は鉱夫のスタミナ食。