「十二月の都大路上下ル(カケル)」は、ちょっとした「非日常」を除けばオーソドックスな青春小説であり、こちらも面白いが、注目すべきはやはり「八月の御所グランド」だろう。
大学の夏休み、主人公は借金のカタに「たまひでカップ」なる野球大会に駆り出される。駆り出した友人も単位のためにゼミの教授から強制されて参加している。序盤は暑い京都の夏に早朝から中1日で5試合という、”酔狂ではなく、単なる「狂」の行動"が、消極的参加ゆえの微妙なテンションで淡々と展開される。
しかし、人数合わせのために飛び入り参加した留学生のシャオさんが「非日常」に気づいたところからにわかに雰囲気はミステリチックになり、読者の心をざわつかせる。「たまひでカップ」の真の意味、何故かいつも人数が揃う理由…「非日常」に対する明確な答えは提示されないが、しかし、爽やかなサプライズとともにぼんやりとした納得感が得られる締め方で物語は終わる。
気がつけば消極的参加であった主人公たちの「たまひでカップ」に対する態度は一連の出来事を通じて変化している。そして読者諸氏の人生への考え方も少し変化しているかもしれない。淡々と話が進み、気が付けばちょっとだけ登場人物が変化、成長している、こういう話好きなんですよね。面白かったです。
それにしても留学生のシャオさんは良いキャラだ。「烈女」という造形が大変魅力的であることに加えて、誠に都合の良いキャラでもある。野球の人数が足りない時に助けてくれるのもシャオさんだし、普通の腐れ学生ならやらなさそうなことを担当して物語の進行を円滑にしてくれるのもシャオさんだ。エヴァンゲリオンで言えばマリのようなポジション。仮に映像化されるとしたら、真っ先に気になるのはシャオさんの配役である。