2011/06/18

植松努 「NASAより宇宙に近い町工場 僕らのロケットが飛んだ」



全額自腹で宇宙開発を行う町工場
 著者が専務を務める会社、植松電機は、リサイクル現場でパワーショベルに付けるマグネットを作る、北海道の中小企業である。本業で稼いだ資金をつぎ込み、全額自腹でロケット開発を行っている。

 スペースデブリ回収のためのロケットを一応は想定しているものの、将来的なビジネスとして深く考えているわけではない。ロケット開発を通じて得られるものは、お金以外にたくさんあるというスタンスのもと、最終的に“「どうせ無理」という言葉をこの世からなくす”ために宇宙開発を行っている。

 栗城史多という登山家がいる。無酸素単独登頂でエベレストからのUstream中継を敢行した、「どうせ無理」の固まりのような人物で、ご存じの人も多いと思う。彼の夢はさらに破天荒で、太陽系の最高峰、火星のオリンポスに登頂すること(ラジオ版学問ノススメ参照)。著者は、そんな彼に「宇宙に連れてってあげる」と言ったそうだ。

大事なのは、自分でやってみること、あきらめないこと
 著者はとにかく何でも自分で作る。真空中のテストを行うための設備、極低温のテストを行うための設備、無重力のテストを行うための設備、どれもレンタルに多額の費用が掛かることが分かると、しくみを調べ自分たちでつくってしまった。このうち、無重力の実験施設は世界で3番目の設備であり、現在はNASAの研究者までが訪れるようになっている。

 ロケットも含め、こうしたものづくりのコツはあきらめないこと。あきらめず工夫を続ければ、状態が少しよくなる。これを積み重ねれば、いずれ問題は解決するのである。

作っているのは未来
 ロケットを作っている植松電機だが、つまるところ本質的に作っているのは、人間であり、人間の未来なのだと思う。ロケット開発を通じて「どうせ無理」ではなく「だったら、こうしてみたら」と工夫のできる人間を作っている。それは、そうした人間が作る未来を作るということだ。これは逆をいえば、自分の頭で考え工夫できる人間が減っている現代への警鐘でもあるだろう。

ホリエモンとの関わり
 余談だが、植松電機はホリエモンら「なつのロケット団」に設備を提供している。当初、出資の申し出を門前払いしたエピソードが本書では軽く触れられている。

 その後、思いのほか真剣な「なつのロケット団」の活動をうけて、設備提供という形で協力関係なるのだが、そのエピソードは「ホリエモンの宇宙論」で触れられている。併せて読むと面白いかもしれない。

NASAより宇宙に近い町工場

植松 努 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2009-11-05
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ホリエモンの宇宙論

堀江 貴文 講談社 2011-04-19
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2011/06/12

Alaw(アロー) ホイッスルケトルを買った

使用中のヤカンが古くなってきたため、買い換えることにした。
買い換えるにあったって、設定した条件は以下の通り。

  • ホーローであること(質感が好き)
  • 笛吹きケトルであること(よく吹きこぼすのです)
  • デザインがみすぼらしくないこと
  • 2L以上の容量

これで探したところ候補に挙がったのが、OXO(オクソー)のアップリフトケトルとAlawのホイッスルケトル。

OXO アップリフトケトル
Alaw ホイッスルケトル

デザインの好みではOXOにしたいところだったが、Alawのデザインもみすぼらしいわけでもなく、およそ2倍の価格差を埋めるほどの違いはなかろう、と判断してAlawを購入。

梱包箱

梱包箱はこんな感じ。すっきりとしている。

本体

本体はこんな感じ。少し分かりにくいが、持ち手に付いているトリガーを引くと注ぎ口が開く。ホーローの質感がGood。
前述した条件を満たしているので概ね満足しているが、いくつか不満も感じたので列挙してみる。

  • 持ち手が固定であるため、水を入れる時など邪魔になる
  • 上部のフタが思いのほか固く、外し/嵌めづらい(お茶パックなど入れづらい)
  • 水が多すぎても、少なすぎても笛を吹かないらしい

とまあ、こんなところ。
ちなみに、ウチの場合はAmazonより近所のホームセンターのほうが安く売っていました。ご参考まで。

2011/06/04

西原理恵子 「ぼくんち」



とにかく強烈
とある港町の底辺で力強く生きる、「おねえちゃん」「一太」「二太」の兄弟を描いた物語。主に、幼いながらも冷めた観察眼を持つ、二太の視点で描かれる。内容は「強烈」の一言。「おねえちゃん」は蒸発した母に代わって、風俗に勤めながら弟たちを養っている。周囲には覚醒剤中毒の人間がワンサといるし、一太は地元のチンピラの「こういちくん」の舎弟となって注射器を売り歩いたりもする。人の命はとても軽く、傷害、病気、事故、薬物中毒でバンバン人が死んでいく。人間的にもどうしようもない人ばかりが、異様なリアリティで登場するマンガだ。

半ば自伝のようなもの
サイバラが自らの半生を綴り、お金の大切さを記した「この世でいちばん大事な『カネ』の話」と併せて読むと、このリアリティの源泉が分かる。かなりの部分、実体験に根ざしているのだ。サイバラ自身、地方の工業都市で貧しい生活を送っていた。本作の「おねえちゃん」は、なけなしのお金をはたいて、サイバラを東京へ送り出してくれた母親がモデルでは無かろうか。やたら心に響く、人生訓のような台詞を吐くし。また、「二太」の妙に冷めた視点は、幼い頃のサイバラ自身をモデルにしているのではなかろうか。「この世でいちばん大事な『カネ』の話」に書かれている、周囲への観察を読むと、そんな気がする。

「おねえちゃん」の名台詞
「泣いたら世間がやさしゅうしてくれるかあっ。
泣いたらハラがふくれるかあ。
泣いてるヒマがあったら、笑ええっ!!」

この内容をコミカルに描ける凄さ
社会の底辺に生きる人々を、陰鬱に描ける人はたくさんいる。しかしこの本は、全編を通じてコミカルで明るく、時にホロッと泣かせる部分もあり、娯楽として一級品のマンガになっている。この明るさこそがサイバラの凄いところだ。こんな内容を、こうも明るく、でも含蓄のある形で描ける人はなかなかいない。大笑いしながら読めるが、でも、心の中に何かが残っている。不思議な傑作である。

ぼくんち (ビッグコミックス)

西原 理恵子 小学館 2003-04
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この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)

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2011/06/03

TED2010 討論:原子力発電は必要か?

TED Talksで原発に関する討論を見つけた
TEDカンファレンスは、アメリカのカリフォルニア州モントレーで開催される世界的な講演会。様々な分野の第一人者が講演を行う。その内容は順次インターネットで公開されていて、有志が日本語字幕をつけてくれているものもある。

そんなTEDのビデオをブラブラと見ていたら、昨年開催された原発の是非に関わる討論を発見した。原発賛成の論者と、原発反対の論者を呼び、それぞれの意見を述べてもらう。その後、それぞれの意見に対する反論を述べてもらい、さらに、聴衆数名からも意見を聞く。そして、討論の開始前と後で、賛成/反対の挙手がどのように変わったか見てみよう、と言う内容である。



再生可能エネルギーで需要は賄える?賄えない?
福島原発の事故が起きる前の2010年の討論であるため、仮に今開催された場合と意見は異なるだろうが、賛成派および反対派それぞれの、主な主張は下記のようなもの。

賛成派の主張
  • 原発の出す廃棄物は火力より遥かに少ない。
  • 原発の出す廃棄物はCO2と違って勝手に移動しない。
  • 風力、太陽エネルギーは膨大な面積が必要。
  • 原発は核弾頭を解体して電気に変える効果があり、核軍縮にも役立つ。

反対派の主張
  • 原発は建設に時間がかかるが、その間にも環境汚染は進む。
  • 原発はむしろ核拡散を招く。
  • 風車の足下は活用できるため、実質的に必要な面積は少ない。
  • 風車は海上にも設置できる。
  • 風力、太陽エネルギー、地熱などを足せば電力需要は賄える

賛成派の反論
  • 核兵器保有国は原発より前に核兵器を保有しており、原発で核兵器が広がったわけではない。

反対派の反論
  • インドとパキスタンが、原発の設備を使って核兵器を開発していたことは事実。
  • 再生可能エネルギーで需要が賄えるのだから、我々は原子力を必要としていない。

聴衆の意見
  • 温暖化のリスクは原発のリスクを上回ると思う。
  • 核廃棄物の輸送中に交通事故が起こるリスクを考慮すべき。
  • 日照時間等の条件を考えると、再生可能エネルギーは十分ではない。
  • 再生可能エネルギー技術が進歩することを考慮すべき。

重要なのは考え続けること
この討論を見て、直ちに賛成になったとか反対になったということはない。むしろ、賛成/反対の結論を出すことよりも、自分たちが使おうとしているモノがどういうモノで、どんなメリット/デメリットがあるのか、考え続けることが大切なんだろうなと思った。

日本ではあまりこのような討論は見かけなかったし、ましてビデオが公開されることなんて無かった。そういう環境が今回の悲劇の一因かも知れないと思う。そういう意味で、TED Talksのようなコンテンツが登場するなんて、良い時代になったのだと思う。こうした他人のモノの見方を知ることは自分の視野を広げることにもなるし、何より、自分なりの考えを持つことに繋がる。

何事も「知って」「選ぶ」ことが重要。おまかせ主義ではなく、自分の頭で判断するために、「考える」ことを忘れない人間でいたいものである。